人はトトロのエンディングテーマ曲「さんぽ」を歌いながら悲しみに浸ることはできるのか?
心と体は連動していると、よく言われる。微笑みながら泣くことはできないし、猫背になって下を見つめながら笑うことは難しい。
そんなわけで、何か辛いことがあったときは、無理やりにでも上を向いて口角を上げて笑うといい。そうすれば体に引っ張られて元気になるから、という話を聞いたことがある。
一見簡単なことのようだけれど、実は難しかったりする。落ち込んだときには気持ちに引っ張られて、このこと自体を忘れてしまいがちだから。それに気付いたのは先日の自分自身の体験があったからだ。
私が住む家は高台にある。周りに高い建物がないせいか、見晴らしがいいのは嬉しいけれど、ひとたび強風が吹くと下界の何倍もの強さとなってやって来るのだ。先日も強風が吹き荒れたのだが、歴代最高ではないかというくらいの強さ。置いていたサンダルや空のプランターが移動するのは当たり前。頑張って育てていた野菜の葉はちぎれて飛んでいき、やっと赤くなってきたミニトマトの実は飛び散っていた。枝は折れ、苗は行方不明。もうカオス、カオス、カオス、カオス、最悪な状況だった。
落ち込んでも元気でいても結果は変わらない。それなら元気でいた方がいいのはわかっている。それでもついつい考えてしまうのだ。やっとあそこまで野菜を大きくしたのに全滅かもしれないと。目線を上げて口角を無理やり上げてみたけれど、なんだかそのときはしっくりこなかった。多分家の中にいても聞こえ続ける、風の唸り声のせいだったのかもしれない。なんせ、そのときは考えても仕方がないことなのに、凹んでしまったのだ。
そんな私を見かねたのか、夫が声をかけてくれた。
「お歌、歌おうよ」
歌?何を言っているんだ?と一瞬思ったけれど、すぐに思い直した。こんなときこそ歌はいいかもしれない。
そんなわけで私が選んだのはトトロのエンディング曲「さんぽ」。腕を大きく振って、その場で足踏みしながらさっそくスタートだ!
歩こう、歩こう、私は元気!
歩くの大好き、どんどん行こう!
信じられないことに、ここまで歌っただけで笑いが止まらなくなっていた。もちろん夫が照れながら行進していたのが面白かったというのもある。でもやっぱりその場行進をして、元気に超前向きな歌詞の曲を歌いながら落ち込むのは難しかったのだ。おまけにこの曲を聞くと、クロアチア人の友人が「歩こう」をずっと「アルコール」だと勘違いしていたエピソードを思い出して、ついつい笑ってしまう(アルコール、アルコール、私は元気!アルコール大好き、どんどん行こう!なんて呑兵衛な歌詞なんだ!)。
もちろんトトロのエンディング曲「さんぽ」を歌えば悩みが綺麗サッパリ消えてなくなる、なんて夢みたいなことは言わない。でも少なくても歌っている方が、悲しみにどっぷり浸っている状態よりはましなはずだ。
自分の機嫌は自分で取ろう。沈んできたなと思ったら、上を向いて笑ってみよう。それでもダメなら「さんぽ」を歌ってみるのもいいかもしれない。