認知症当事者の視線から描かれているのが興味深い!村井理子の「全員悪人」を読んでみた!
最近父の物忘れが激しくなってきた。同じことを何度も聞く。直前の話を全く覚えていない。何十年も通っている床屋の場所がわからなくなり、なくなったと言う。デイサービスを会社だと思い込み、年をとっても働かされると不満げだ。今まで遠い世界の話だと思っていた認知症だったが、今後のことを考えて何冊か本を読んでみた。
最初に読んだのは認知症の人を理解したいと思ったとき読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方 (心のお医者さんに聞いてみよう) [ 内門大丈 ]。認知症によって引き起こされる症状と対処方法がわかりやすく書いてある。
そして認知症の人が何を考えていて、なぜそのような行動をとってしまうのか、認知症の人の目線から説明しているのが 認知症世界の歩き方 [ 筧 裕介 ] 。認知症という不思議な世界の旅をしながら 今まで不可解だった認知症の人の行動を紐解いていく。決して何もわからなくなってしまうのではなく、自分の理解している世界のルールで行動していることを説明してくれる素晴らしい本だ。
そして今回紹介する 全員悪人 [ 村井理子 ] は認知症になってしまった女性と家族の物語。この本が面白いのは、当事者の視点で書かれているということだ。
知らない女(介護してくれる人たち)が家の中に入ってきて大切にしてきた台所を牛耳ってしまう。長年連れ添った夫も、本物そっくりのロボットに見える。夫が介護の職員と浮気していたり、家に泥棒が入っていると思い込んでしまう。今までできていたことができなくなり、いろんな記憶が抜け落ちていく不安。自分への扱いに対する怒り。夫は認知症気味だと信じているが、まさか自分が認知症だとはこれっぽっちも思っていない…。
深刻で重くなりがちなテーマながら、軽いタッチで読みやすい。淡々とした中にもクスリと笑わせてくれる箇所があり、それでいて切ない。
認知症はすべてがわからなくなってしまうと思われがちだが、この世界の見え方が少し違うだけ。その人なりの理屈があるのだ。認知症の人の心の中を少し覗くことができた気がする。周りの人が認知症になったときに、どう対応すればいいのか考えさせられる一冊だ。