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父の記憶はどこにいくのか

 
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のぶのぶ
世界30数か国を旅してきた旅行好き。華奢でおとなしそうな見た目とは裏腹にリュックサック一つでぷらりと出かける行動派。東京のど真ん中から愛媛に移住。トライアスロンに挑戦したり自然を満喫しています。

天気は晴れ、ポカポカ陽気。こんな日は外に出るのにぴったりだ。せっかくなので夫の両親を誘って出かけることにした。

夫の父は最近物忘れが激しい。足腰も弱って、一日中テレビの前で寝たり起きたりを繰り返している。何か用事を作って外に連れ出したい。そこで思いついたのが、パターゴルフ。あれなら強制的に歩けるし、楽しいかもしれない。

問題はオッケーしてくれるかだ。父は誘うと、大抵のことは嫌だと言って断る。パターゴルフも、なんでそんなことをしなくてはいけないのかと断るかと思ったが、珍しくすんなりオッケーしたらしい。

「お昼を食べたら迎えに来るから準備してね」そう伝えて一時間後迎えに行くと、珍しくすんなり外に出てきた。パターゴルフに行くとわかっているのかな?少し気になって、ちょっと意地悪な質問をしてみた。

「お父さん、今日行くところ、初めて?」

父は、そうじゃのうと少し考えてから「今日はどこへ行くんじゃったかの」と恥ずかしそうに聞いてきた。パターゴルフだと言うと思い出したようで、初めてだと答えた。

父も母もパターゴルフは初めて。何をするんだろうと、人生初のパターを握りしめながら挙動不審だ。

まずは目が見えにくい父のために、みんなで穴の確認。夫が見本を見せながら、あそこに坂があるよ、コースが曲がっているから難しそうだね、など声掛けをしていく。

「惜しかったね」「ちょっと強めの方がいいかも」「今のは入ると思ったんじゃが」「すごいね」

コースが進むにつれ、おっかなびっくりだった父と母から笑みが溢れてきた。何をするにも文句を言わずにいられない父も、今日は「惜しい」と悔しがったり、「若い人はすごいのう」と褒めたりしながら、コースを歩いていた。しまいには、ぼそっと「こんなことなら、もっと早くからやっておけばのう」という言葉まで飛び出した。これには私も心の中でガッツポーズだ。

最後はパターゴルフ場にあった表彰台で記念撮影。写真なんて久しぶりだと父ははしゃいでいた。

その後、少しドライブしてから家へ向かった。今日は楽しかったか聞くと、母はノリノリで楽しかったと即答。一方の父は、そうじゃのうと考えながら、楽しかったなと答えた。疲れたのか、少しテンションが低めな感じだった。

家に着いてから、母が何処に行ったか尋ねると、父は全く違う地名を答えていた。車の中では地名も、この辺は坂が多い地形だなど解説していたのに。

母が今日は何をしたか尋ねると、そのうち思い出すかもしれんのう、と父。一緒にパターゴルフをしたことを忘れていたのだ。もっと早くパターゴルフをやっておけばという言葉も、写真が久しぶりだと喜んだことも、全て忘れていた。

父の記憶は一体何処に行ってしまったのだろう?彼がパターゴルフのことを思い出す日は来るのだろうか?

それでも一緒にパターゴルフに行ったことは無駄でなかったと信じたい。例え忘れてしまったとしても、無邪気にはしゃいでいたことは、きっと彼の中の深いところに眠っているはずだ。その記憶が日の当たる場所に来ることがあるのか、ないのか私にはわからないが、それでも彼の一部になっていることを信じたい。

それに、何より私は一緒にパターゴルフをして楽しかった。父がパターゴルフを忘れたらまた一緒に行けばいいのだ。きっと、父にとっては人生初のパターゴルフ。それでいいのだ。

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