歯科医院の治療中、恐怖を紛らわせるためにしていることとは?
私は病院が苦手だ。苦手と言うか、ただひたすら恐ろしい。その頂点と言ってもいいのが歯科医院。定期健診で3か月に1度通っているのだが、数日前から憂鬱になってくる。自分で予約を入れたくせに、なぜ行かなければいけないのかと泣きたくなる。病院もきれいだし、担当の人もとても優しい。それでも怖くて怖くて仕方がないのだ。
まず、やることがいくつあって、今どの段階にいるのかわからないのが恐ろしい。定期的に通っているので、なんとなく見当がつくけれど、たまに予想が外れて長引くと泣きたくなってしまう。早く終わると思ったけれど、実は虫歯が見つかったのかもしれない、これからたくさん削るんだ、不安はどんどん膨らんでいく。
そして何よりも音が異様に恐ろしい。キーンキーンという金属音。黒板を爪でひっかいたときのような、ゾゾっとする感じ。それが絶えず口の中からしているのだ。恐ろしくないわけがない。BGMでは穏やかな曲が流れているけれど、治療中には全く聞こえない。治療中にこそ癒しの音楽が必要なのにだ。
あまりにも金属音が恐ろしすぎて、イヤホンで音楽を聴いていてもいいか聞いてみた。いいですよ、とのことだったので試してみたら、金属音が和らいで、気持ち楽になった。しかし問題があった。指示される声が聞こえないのだ。これはもっと恐ろしい。そんなわけでイヤホン作戦は、なくなく断念した。治療中には音楽が聞こえて、人の声もきちんと聞こえるシステムが導入されたらいいのに。
今日も恐ろしさに耐えながら、台で横になる。気分はまな板の鯉だ。
「気分が悪くなったら左手で教えてくださいね」
いや、騙されないぞ。合図しても「大丈夫ですよ。もうすぐ、終わりますからね」と言われて終わるのはわかっている。恐怖の金属音には耐えるしかないのだ。
恐ろしさを紛らわせるために、必死で何か別のことを考える。気になっているワンピース、赤と緑、どちらを買おうか。赤いワンピースを試着している自分を想像してみる。次は緑。手持ちの小物と合うだろうか。赤がいいか、緑がいいか…。
まだ終わらない。
もっとハイテンションで挑んでみよう。アンミカがテレビショッピングをやっているところを想像してみる。
「えー、めっちゃいいやん、この機械。みなさん、水流が強いから歯にこびりついた汚れもしっかり落としてくれるんです。ねえ、すごいでしょう?この機械が、今ならたったの…」
この機械、いくらくらいするのだろう?見当もつかない。今ならたったの、いくらなんだ?
悩んでいるうちに、やっと治療が終了した。虫歯も何もなく、口の中もさっぱりして気持ちがいい。時計を見ると、さほど時間は経っていなかった。やれやれ、今回も無事に生き延びた。今から3か月間は、病院から解放された幸せな毎日が待っている。そして3か月後、また同じ恐怖が襲ってくるのだ。今度は治療中に何を考えようか。今から考えておいた方がいいのかもしれない。