相撲は二度おいしい
夫の父は相撲が大好きだ。夕方になるといつもテレビで相撲を見ている。「お父さん、お相撲好き?」と聞くと「好きではないけど、他に見るもんないんよ」という。相撲が好きと言うよりかは、テレビを見ていて理解できるから楽しいのだと思う。
物忘れが激しくなり直前の記憶も怪しい彼は、CMが始まると直前に何を見ていたのか忘れてしまう。下手するとCMを番組だと思って熱心に見ていることすらある。その点相撲は短期決戦。短時間で決着がつくためわかりやすい。
そしてルールがシンプルなのも相撲が好きな理由だと思う。よく父と一緒に相棒の再放送を見ていると、最初のうちは「右京さんは紅茶が好きじゃのう」とか「右京さんが、最後に一つだけというのは重要な質問じゃ」など言って楽しく見ている。しかし事件が始まると途端についていけなくなり、「今回はあんまりじゃったのう」とつまらなさそうだ。その点相撲のルールはシンプルでわかりやすい。伏線もミスリードもなし。勝ったか負けたか、それだけだ。
せっかくなので相撲を一緒に見ながら、いろいろ聞いてみる。相撲を取る前になぜあんな行動をするのか、今の横綱は誰なのか、今場所強いのは誰なのか…。すると嫁にはいい格好をしたい父は、頑張って答え始める。外国人力士の出身国を聞いたときには、結局当たらなかったが、頑張って国の名前をいくつも挙げてくれた。外国とは無縁な父がマイナーな国の名前をいくつも列挙しているのは、なんだかとても面白い。
そんなことをしているうちに相撲の中継は終了。だが父にはもう一つ楽しみがある。それはその後に続くスポーツニュースだ。ニュースが始まるころには相撲の中継を見たことを忘れているので、「どっちが勝つんかのう」と毎回ワクワクして見ている。
父にとって、相撲は二度おいしいのだ。