父が私のことがわからなくなった

2023/07/14

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世界３０数か国を旅してきた旅行好き。華奢でおとなしそうな見た目とは裏腹にリュックサック一つでぷらりと出かける行動派。東京のど真ん中から愛媛に移住。トライアスロンに挑戦したり自然を満喫しています。

父が私のことがわからなくなった。まあ、父と言っても彼の親だったし、前から記憶障害があったし、しばらくしたら私のことを思い出したので、ダメージはなかったのだけど。でも私のことがわからなくなったのは初めてだったので、少し驚いた。

この前、思いつきで父が通っているデイサービス(父は仕事に行っていると信じている)に行ってみたときのことだ。「お父さん、元気？」と話しかけた私に対して、びっくりした様子の父。サプライズ成功だと思いながら、パズルに取り組む父としばらく話をした。その後父はレクリエーションに参加し、終了後父が話しかけてきたのだが、その内容に驚いてしまった。知らない人が話しかけてきて誰かと思っていたけれど、レクリエーションの最中で私だとわかったというのだ。

最初話しかけたときに、父は私が誰かわからないまま話をしていた。そしてよくわからないまま話をうまく合わせて会話を成立させていたのだ。会話の中で私の名前がわかったけれど、父の知っている私はこんな顔ではなかったし、こんなスリムな人ではなかったと思っていたらしい。それが突然、私に見えたというのだ。

人間の脳は面白い。私という存在は認識していても、実際の私の姿と結びつかない。日によって太って見えたり、痩せて見えたり。顔も七変化しているに違いない。

父には私のことがどう見えているのだろう？ストッキングを被った顔のように一人ひとりの区別がつかない存在？それとも見るたびに別人の顔に変わっていく早変わりの名手？

いずれにせよ、そんな不可解な相手に、わかっていないことを気付かれないようにしながら話を合わせようと、空気を読みまくる父。そう考えながら最初の会話を思い返すと、会話の内容が違ったものに感じられる。

「今日はもう帰るね」と言った私に、父はデイサービスで出されたおやつをくれた。お父さんと、はんぶんこ。